かぜの対症療法について①

 最近は、定期的に雑誌へ執筆の機会をいただいております。私自身、知識の整理や学習の機会にもなり大変ありがたいことです。長野が何か優れているのではなく、偉大な先人達が築かれた沖縄県立中部病院への信頼を享受させて頂いているのだと思います。 

 今回は中島啓先生が企画された呼吸器ジャーナルでは「かぜの対症療法」についてまとめました。PL顆粒はじめ総合感冒薬の是非、去痰薬の作用機序について記載いたしました。 

 風邪の咳がひどい時には、、ハチミツが効きます(諸説あり)昔、体調が悪くなって学校を休んだ時に、母が甘い甘いハチミツを食べさせてくれたのを思い出して1人で回想してました。こちらのブログに少しだけ内容を載せたいと思います。皆様の日々の生活、診療にお役立ていただければ幸いです。

今日は総論と発熱に関してです。

< 要旨>

・風邪と類似した頻度の多い疾患, 重篤な疾患を鑑別・除外できていることが前提となる.

・抗菌薬が必要な疾患,不要な疾患を明確に意識する.

・対症療法は短期間限定で行い, 症状フォローアップを怠らないことが肝要である.

はじめに

  風邪に対する適切な対症療法は重要である. 何故ならば、患者は風邪により日常生活や仕事に支障をきたして受診しているため, 医師はその苦しみに寄り添い,可能な範囲で症状の緩和を行う必要があるからだ. 一方で, 医師は対症療法のメリット, デメリットに関しても熟知した上で,バランスよく実臨床に適応させる必要がある.

<風邪と類似した症状の疾患>

典型的な風邪では, 咳・鼻汁・咽頭痛の3つを同時期に同程度訴える患者さんは「風邪」であると言える.対症療法を試みる前に鑑別疾患として、以下の疾患を可能な限り診断または除外していることが望ましい[1].

●アレルギー性鼻炎・季節性鼻炎

●新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)

●細菌性咽頭炎・扁桃炎

●急性細菌性副鼻腔炎

●インフルエザ

●百日咳

高齢者であれば, 上記に加えて

●誤嚥性肺炎・細菌性肺炎

  • 尿路感染症
  • 胆嚢炎・胆管炎

なども鑑別に加わるだろう。

CDCガイドラインでは,一般的な風邪症状の持続期間について,症候別にまとめている.

咳嗽は他の症状が経過したのちも残存することがあり,感染後の咳嗽などとも呼ばれる.

3週間以上続く場合には,咳喘息,気管支喘息, 高齢者であれば肺癌などの重大な疾患の存在も鑑別に入れる必要があるが, 風邪が治った後もしばらく症状は持続する可能性があることをあらかじめ説明しておくことがポイントである.

図1:風邪の主症状の持続期間について

(CDCホームページ https://www.cdc.gov/antibiotic-use/colds.html より改変)[2]

 

風邪症状の各論

<発熱>

まず、熱が出た場合にはどのように対処すべきか?

熱があるときには解熱薬を飲んで熱を下げている医療者が多いが, そもそも感染症によって起こる熱は下げた方が良いのだろうか?

発熱は言うまでもなく,外部から侵入してきた病原体に対する生体の防御反応である.

侵入してきた病原体に対して白血球が発熱性サイトカイン(IL-1,TNF-α,IFN-γ,IL-6など)を産生し,体温の調節機能を持つ視床下部に作用する. 視床下部が体温を上げようとする時に寒気(悪寒)を感じる[3].

過去の研究により,40℃くらいまでの発熱で脳に障害が出ることはなく, 発熱と疾患の重症度は相関しない.重症敗血症ではむしろ低体温となる.体温が上昇しているほうが免疫反応が活発化し殺菌作用増強,良好な予後につながったという報告がある[4].

解熱により得られるメリットはあるのだろうか?

一つは,熱を下げることによって、発熱そのものによる倦怠感,発熱に付随する頭痛,関節痛,筋肉痛といった症状が緩和される.また体温が1℃上がるごとに体の酸素消費量は13%程度増加するため, 心不全, COPDなどの慢性疾患を有する患者では基礎疾患の増悪を防ぐ意味で解熱薬を使用することは有用かもしれない.

熱を下げる方法は大きく分けて二つある.すなはち, 外部から体を冷やすクーリングと,解熱剤の使用である.体温を下げる目的の治療としてのクーリングは,体表面の近くを通っている動脈がある頚部や腋窩, 鼠径部へ氷嚢や冷湿布などを適切に当てる.

風邪ではないが, 38.3℃を超えた敗血症性ショックの患者に対して36.5~37℃まで下げるのを目標に,48時間を目安にクーリングしたところ,14日後の死亡率が低下した[5]. 発熱に対してまずはクーリングを行う,という方法は許容されるかもしれない.

現在使用できる代表的な解熱鎮痛薬はアセトアミノフェン,非ステロイド系消炎鎮痛薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs;NSAIDs)の2種類であり,日常的に使用されている. 両者とも解熱・鎮痛作用があり,NSAIDsは抗炎症作用も有することが特徴の一つである(表1). また,NSAIDsの中にも作用時間や作用の強さなど,細かい分類が存在するがそちらは割愛する.

敗血症患者にNSAIDsまたはアセトアミノフェンを投与すると,28日死亡率がそれぞれ2.6倍,2.1倍高くなったとの前向き観察研究がある(クーリングは死亡率を上昇させなかった).発熱自体は死亡率とは関連しておらず高体温よりも低体温のほうが死亡率が高かった. 一方で,その後発表された研究では,少なくともアセトアミノフェンによる解熱は敗血症患者の予後に影響しなかったと報告されている(アセトアミノフェン1回1 gを6時間ごとに静脈内投与)[6][7].

また,解熱剤には血圧低下の副作用がある. アセトアミノフェン,NSAIDsそれぞれで平均血圧が6.6±6.0 mmHg,5.9±5.7 mmHg低下し,さらにNSAIDs使用群では有意な尿量減少を認めることが指摘された[8](クーリングは血圧を低下なし).

 また,高血圧治療などで「利尿薬とACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬」または「利尿薬とARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)」の2剤を併用している患者にNSAIDsを投与すると,急性腎障害のリスクを有意に増加させる報告がある[9].基礎疾患に慢性腎臓病がある患者にはそもそもNSAIDsを使用しないことが推奨される.

表1 アセトアミノフェンとNSAIDsの作用機序,副作用について

 アセトアミノフェン非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)
解熱作用
鎮痛作用
抗炎症作用×
副作用肝障害消化性潰瘍, NSAIDs喘息 ,腎障害, Reye症候群
内服薬(商品名)カロナール®️ アンヒバ®️ ピリナジン®️ロキソニン®️ ボルタレン®️ セレコックス®️ (COX-2選択的阻害薬) ナイキサン®️ (腫瘍熱に有効)
静注薬(商品名)アセリオ®️ロピオン®️

また, 熱型そのものが疾患の鑑別に役立つことがある.

例えば, 稽留熱(1日の体温さが1℃以内の持続する高熱)は大葉性肺炎, 粟粒結核, 髄膜炎を示唆し, 弛緩熱(1日の体温差が1℃以上変動するが37℃以下には下がらない熱)は化膿性疾患、敗血症、悪性腫瘍、肺結核などの重大疾患を示唆する. 一方で間欠的に発熱,解熱を繰り返す疾患にはマラリア、ブルセラ、ホジキン病、腎結石、胆道閉鎖などが鑑別となる.

なお、参考文献についてはこちらでは割愛しております。

次回は咽頭痛についてご紹介させていただきます。

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