誰かの役に立ちたくて・・

院内メンタルサポートチーム(MST)結成

 沖縄県もあっという間にコロナウイルスの感染に飲み込まれ、各病院ではギリギリの対応が続いております。

 自分は呼吸器内科医なので、実際に感染した患者さんを担当し診療に当たっています。

我々よりももっと大変なのは、徹底したゾーニングによって医療スタッフをコロナから守り、医療崩壊を食い止めるべく不眠不休で働いてくださっている感染対策チームの方々です。本当に頭が下がる思いです。我々呼吸器スタッフも、長期戦に備え、さらに前面へ出て患者さんの治療、ケアに当たって行けるよう、休日の回診スタッフを増員しチームの再編成を行いました。遅ればせながら当科も臨戦態勢で日々の診療に当たっております。

 コロナ感染の流行は長期化する見込みです。終息までには2年以上かかるとの見解も示されています。病院で働く職員(医師,看護師,コメディカル, 事務職など)の疲労、ストレスの蓄積が懸念されております。社会全体で「苦しみ」が増しております。

病院職員から挙がってくる声は非常に悲痛なものがあります。

健常者の苦しみは周りから見えないことが多く、皆、苦しみを内に秘めながら誰にも言えずにいます。

  • 感染対策チーム:なぜ私達だけ,これほど辛く苦しく,終わりの見えない労働を続けなければならないのか.
  • 新人職員:一体、何が起こっているのか?辛くても誰にも言えない,リフレッシュする時間, 場所もない.
  • 看護師:  なぜこんな危険にさらされる毎日なのか.逃げ場がない.子供を保育園預けられない
  • 外科医 :手術もできない .自分は何の役にも立てないのか.
  • 事務職: 規則が毎日変わる, 怖い, もう病院へ行きたくない.
  • 清掃員: 患者の部屋を掃除したくない, 怖い.
  • 全職員:   外出できない, 外食できない, 誰にも会えない.子供が1日中家にいる, 旦那が1日中家にいる.

「選ぶことができる自由」がないことは人生において苦しみとなります.

 コロナ危機が訪れる前、私は、エンドオブライフ・ケアのファシリテーターとして、沖縄を拠点として学習会を開催してきました。また、「いのちの授業」認定講師として、若手医師や医学生向けにいのちの授業を展開していました。

 今、医療現場はコロナ肺炎の影響で疲弊しつつあり, 学習会を開きたくてもなかなか皆さんをお誘いするのが、気がひけるといういか、申し訳ないような状況です。

「勉強会どころではない」というのが現場の正直な状況かと思います。

 現場で苦しむ人の力になりたくてもなれない自分の無力感に落ち込みました。

 私自身も現場にいるので彼らのリアルな苦しみを見ているので余計に、、

 私は色々考えた末にあることを思いつきました。

たとえ, 「ELC沖縄」「いのちの授業」という形でなくとも,ELCで学んだ技術,知識を活かして解決できない苦しみを抱えた人たちに関わってゆければと、、

 私が発起人となり, 精神科医, 公認心理士, 産業保健, 事務職の方を構成員とし, 病院の管理職の方の承諾を得て, 病院職員の心のケアを目的とした「メンタルサポートチーム(MST)」を立ち上げました.

COVID-19 対応医療従事者向けのメンタルヘルスチェックシートを用いてスクリーニング検査を行い, 苦しみが強い職員に対して, 個別に面談をおこない, 苦しみを共有してゆけたらと考えております. ここで「援助的コミュニケーション」を用いてお話が聴ければと考えております。

精神科的介入が必要な方は適宜, 専門医へ紹介し,制度の利用などによって解決可能な苦しみの場合にはしかるべき専門家へコンタクトを取ります.

 承諾が得られた方にはフォローアップを行い, 私たちとの面談によってどのように気持ち、考えかた、行動が変わったのか分析してゆきたいと思います。

 複数の専門家が集まって、共通のビジョンを持ち、個別アプローチにするだけでは解決できなかった社会的課題を解決する新たな試みを「コレクティブ インパクト: collective impact」と呼びます。

詳細はこちら

英文もあります

https://ssir.org/articles/entry/collective_impact

コレクティブインパクトの5つの特徴

コレクティブインパクトとは、下記の5つの特徴をもつものであると定義されています。

1, 共通のアジェンダ (Common Agenda)

全ての参加者が、変革に向けた共通のビジョンを持たなければならない
課題に対して共通の認識をもち、合意が得られた行動を通じて、共に問題解決を行う

2, 評価システムの共有 (Shared Measurement)

全ての参加者が、共通の方法で成果を測定・報告し、それらを通じて学習・改善する

3, 互いに強化し合う活動 (Mutually Reinforcing Activities)

様々な分野のステークホルダーが、それぞれに特化した活動を通じて、互いを強化し合い連携する

4, 継続的なコミュニケーション (Continuous Communication)

信頼を築き、共通の目的を持ち、モチベーションを創り出すために、すべてのプレーヤーが、継続的なコミュニケーションをとる

5, 活動を支えるバックボーン組織 (Backbone Organization)

全体のビジョンや戦略を導いたり、測定システムを確立したりなど、活動をサポートする独立した組織のこと

現時点で我々MSTは以下の施策を考えています。

目的①:コロナ危機による職員の苦しみを受け止め,共有する.

目的②:解決できる苦しみは解決を約束する.

目的③:専門職の介入が必要な職員を迅速に専門家へつなげる.

中間アウトカム(6ヶ月後くらい):苦しんでいる職員が孤立せず, 仕事を継続できている.職員の離職, 燃え尽きを防げている.

最終アウトカム(1-2年後):長期化するコロナ危機の中で解決困難な苦しみが続いても,逃げずに関わり続ける「折れない心」を育て,皆が苦しみの中でも穏やかさを保つことができる職場となっている.

統一した指標、評価方法などがまだ見つかっていませんが、これから徐々に、、

私たちは, 解決困難な苦しみを抱えながら医療現場, 介護現場で必死に働く人々を誰一人として取り残したくはありません。

「だれかの支えになろうとする人こそ、一番、支えを必要としています」

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